父と息子 8
一人は男と年格好が同じくらい五〇歳前後、登山帽みたいな帽子をかぶっているが、頭は相当薄い。
しっかりした足取りで、左手でがっちりと若い男の手を握っている。
若い男は二〇歳を少し越えたぐらいであろうか。
足元が不安定で、首を左右に揺らせながら、必死に階段をのぼっている。
ひと目でそれは親子だとわかった。
障害を持つ息子に、渋谷の街を見せようと、休日に二人は出て来たのであろう。
父親の左手の腕には太い血管が浮き出て、がっしりした手が、息子の右手をしっかりと握っている。
息子のよろけそうになる足元も、強い父の手が支えているのであろうか、息子もかろうじて真っ直ぐに歩いて行く。
その親子と男は行く方角が同じらしく、男は二人の後に続くようなかたちで歩いた。
父は大きな声で息子に説明する。
「これがデパートだよ。
わかるか。
何でも売ってるデパートだ」。
父が何かの説明をするたびに、息子は首を振り振り頷いている。
九月末でまだ暑い。
親の捲り上げた腕にも手にも汗が流れている。
背中もおそらく流れる汗であろう。
父の手がまるで息子の一本の杖になったように、二人は歩いて行く。
父と子がこのようにしっかりと手を握りあう姿など、男は見たことはない。
男は吸い付けられるように、その父親の背中を見ていた。
若い男は少し障害がある人なのでしょうか?